大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
上靴からローファーにかえて、
先に外にでると、もうすっかり暗くなっていた。
私の後を追って、千尋も外にでる。
私よりも頭ひとつぶん高い千尋を横目でみて、やっぱり、挑発には、無視ではなく、真面目に返してやったほうが、案外やつにとっては痛いんじゃないかって思いはじめた。
「千尋、」
「んー」
「……たった一人でも好きなひとと付き合えたなら、それって、モテモテでたくさんの人に告白されるよりすごいことだと思うよ」
「……、」
「…………」
「……そーだね」
大切な人と付き合った記憶がある。
だけど、うまく大切にできなくて、最低な終わり方をしてしまった。
千尋はたぶんそれを、誰よりも近くで見ていた。
”彼”の顔が頭に浮かぶ。
鮮明に。それほど昔のことじゃないから。
薄暗闇のなかで、あの日のままの彼が微笑んだような気がした。
いつも優しい、”彼”が、大好きだった。
ずっと助けてくれる王子様みたいだった。
懐かしさだけではおさまらない彼との記憶には、いつも切なさや罪悪感がつきまとう。