大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
すると。
「――虹、ちょっと怖い」
千尋が、一瞬だけ嫌そうに眉をひそめてそう言った。
だけど、嫌そうな顔を作ったのは一瞬で、「百瀬のことより髪型を気にしてほしいんだけど」と文句をつづけてすぐに表情をくずした。
苦笑いを浮かべながら前髪に触れて、私から視線をそらす。
私はそんな千尋をみながら、不意に我に返って、恥ずかしくなる。
それから、自分の余裕のなさに逃げ出したい衝動に襲われた。
かっ、と頬に熱がのぼっていく。
怖い、
千尋はなんとなく思って言っただけかもしれないし、そんなに深い言い方ではなかったけれど、
確かに今、自分のことを、ちょっとじゃなくて、すごく怖い、と思った。
百瀬、さん。
千尋のクラスの女の子。
名前も知らなかったから、当たり前だけど、顔も何も知らない。
でも、千尋の口からその名前を聞いただけで、今正直、余裕がなくなっている。
だって、女の子たちに“くそやろう”な千尋なんだ。
私以外に、例外はないと思ってた。
すすめられた髪型にするって、それってどれくらい仲いいの?