大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「朝比奈くん、私の貸そうかー?」
「いい、こいつに借りる」
「えー、私が朝比奈くんに貸してあげたいんだけど」
「虹に貸してっていって、いま探してくれてるのに君に借りるのは虹に失礼じゃん」
あまり私とは話したことがないクラスメイトの女の子が千尋にすり寄ってきたのを、千尋はあっさりと交わし、私の机の前にしゃんがんで、机の上にあごをのせる。
その子のことを一度も視界に入れずに断ったものだから、代わりに私が彼女と目が合ってしまい、少しだけ睨まれるというとばっちりを受けた。
はい、と白色の電子辞書を千尋に渡すと、ありがと、ってゆるく笑う。
「いつ返せばいい?」
「放課後帰るときでいいよ」
「分かった。じゃ、戻る」
ひらひらと適当に手を振って、去っていた千尋の後ろ姿をぼんやり見ていたら、「朝比奈千尋むかつくっ」って少し離れたところでさっきの女の子が怒っている声が聞こえたから、千尋も千尋で可哀想な時もあるんだな、と苦笑いしてしまった。
顔もスタイルもいいのは相変わらずだけど、髪型を変えて、さらに女の子たちにモテるようになった気がする。
その分、今のようにむかつくとか性格悪いとかいろいろ言われることも増えているだろう。
でも、その妬みややっかみが私に飛んでくることはあんまりなく、さっきみたいに睨まれるくらいですんでいるのは不思議だ。
千尋が私のことを聞かれたときに、幼なじみだから恋愛対象じゃない、という類いのことを完全に言い切っているからかもしれないけれど。