大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「…水嶋くん、あの、千尋呼んでくれない?」
「朝比奈?」
「うん、電子辞書返してほしくて」
「わかった」
朝比奈―、枢木ちゃんが呼んでるー、
水嶋くんが間延びした声をちょっとだけ大きくさせて、窓に肘をついたまま教室を振り返る。
私は、その窓からそっと教室のなかをのぞいて、千尋の姿を探した。
ゆらゆらと視線をさまよわせた末に、教室の後ろで複数の男女で話してる千尋を見つける。
水嶋くんの声に、千尋が窓の方にゆっくりと顔をむけた。
視線が、水嶋くんにいって、そのまま流れるように私をとらえる。
途端に、一瞬だけ目を大きくさせて、会話をぬけて、すぐにわたしたちの方に歩いてきた。
あの中に、百瀬さんはいたのかな、なんてこんな時でも私のこころの中には憂鬱な灰色のしずくがポトリと落ちていく。