大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「水嶋はやめておいたほうがいいよ」
それから、手首を解放して、唇をぎゅっとむすんだ千尋。
それで今日の休み時間の出来事を思い出す。
正直、“百瀬”さんのことで頭がいっぱいで、水嶋くんのことなんてすっかり忘れていた。
水嶋くんが意味深なことを言って、そのあとすぐにチャイムがなったから、その後にだれも言葉を発することなく、あの場は終わっていた。
だから、まさか、千尋がそんなことを言うなんて思ってもいなくて。
それに。
「…前に、私に水嶋くんのこと紹介してやろっかって言ってたじゃん千尋」
コンビニで会った日、からかうみたいに私に千尋がそう言ったのをうっすらと覚えている。
千尋は、それを思い出したのか一瞬決まり悪そうにしたけれど、すぐにうさんくさい笑みをうかべて、「言ったっけ?」なんて私を馬鹿にするようにとぼけたことを言う。
つかまれていた手首を風がさらりとなでていって、千尋の手のひらの温度を簡単に消す。