大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「私、先に行くね。…教えてくれて、ありがとう」
「うん、じゃーね、また食べよー」
「……機会があったら食べようね」
お弁当箱の入った袋を片手に、一応、ぺこりと水嶋君に小さくお礼だけして、階段をおりる。
水嶋君は、ゆるやかな弧を口元にうかべて、機会ならつくるわー、と適当なことをいって、ひらひらと手をふってきた。
一段、二段、足をおろしていくたびに、苦しさは増す。
嫉妬さえしちゃいけないと誰かに咎められるような、千尋と百瀬さんのふたりの秘密。嫉妬の代わりに、いつか千尋の優しさも罪になればいい、と最低なことを悪魔に願う。
水嶋君から聞いた話のせいで、千尋との接し方がわからなくなったり、気まずくなったりすることはないだろうけど、でも、やっぱり苦しいよ。
そうやって苦しさに溺れていく気持ちで階段をおりていたら、踊り場に右足のつまさきが触れたタイミングで、「枢木虹ー」とさっきまで私のことを枢木ちゃん、と呼んでいたはずの水嶋君が、突然フルネームで私を呼んだから、驚いてすぐに振り返ってしまった。