大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
思えば、確かに今まで、千尋に好意を伝えるようなことをしてきたことはなかった。
逆に伝えないよう、不自然じゃないように、千歳君が好きだと嘘をついて、それで隣にいて。優しさに苦しくなって。
それで、終わりだった。
そんな私を、今、千歳君は悲劇の真ん中から落としてくれたんだ。
「…千歳君」
『うん?』
「…虹ね、ちょっとがんばろうって思えた。…ありがとう」
『うん、よかった』
ほっとしたようにそう言った千歳君には王子様みたいな優しさが戻っていた。
「具体的にどうすればいい?」
『んー、デート誘うとか、やきもち焼いてみるとか、色々あるじゃん。虹、自分で考えなよ』
「うん。そうだね、自分でちゃんと考える」
それからしばらく話して、おやすみ、を言い合って電話を切った。
じんわりと温かい気持ちと祝福の気持ちがまじりあって今夜だけは、苦しみに勝てそうだ、と思う。
また布団にもぐりこむ。
向き合う暗闇も、光らない選択肢も、悲劇の真ん中からはずれた私は、少しだけ大丈夫だって思えたんだ。