大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】




帰れない、との連絡もなかったから、今日はいつも通り一緒に帰れるんだと思う。

課題をぜんぶ教室で終えてしまって、ひとり、待ち合わせ場所の下駄箱に向かった。




ほとんど秋になりかけている夏の風が、校舎の玄関からはいってきて、髪をゆらす。

下駄箱は、しん、としていて、まだ千尋はきていなかった。
下校時刻はとっくのとうに過ぎているから、他の人もあまりいない。



後ろでひとつにくくっていた髪をおろして整えた後、リップを塗り直す。


ブラウンの秋仕様のもので、美優に似合うって言われたし、とても気に入っているものだ。
千尋には、赤っていうより茶色いね、とひとつも嬉しくない感想をこの前もらったけれど、私が気に入っているのだから別にいい。




遠くで聞こえる吹奏楽部の楽器の音と、運動部のかけ声。


青春だ、と思いつつ、こうやって好きな人を待っている私も青春だったりして、なんてまったく浮かれてはいられない状況で、一瞬浮かれた気持ちになってしまい、我に返る。





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