大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
家に帰ると、お母さんに、なんて顔してんの、と心配された。
それで、鏡を確認したら、自分でも驚いた。
悲しい顔って言うより、悲痛な顔。
まるで、お姫様に意地悪をする悪役の女みたい。
こんな顔で、千尋の前に立ってたんだって思うと、笑いさえでてきてしまう。
せめてものリフレッシュと思って、長風呂をした。
アヒルのおもちゃを浮かべて、ぼ-っとそれが水面でゆれているのと、もくもくとあがる湯気を見ていたら、やっと涙が染み出てきて、お風呂にもぐってちょっとだけ泣いた。
泣けない、千尋の前でうまく。
小さい頃は泣けたけれど、年齢を重ねるにつれてできなくなった。
物心ついてから、あのときだけだと思う、大泣きできたのは。千歳くんに振られた次の日。それっきり。
いつも、優しさに泣きたくなってばかりなのに、涙は出ない。
今日、もしあの場で泣いていたら、千尋は百瀬さんのところにいかなかったのかな。
なんて考えたら、また、じわりと瞳を涙がぬらす。
この透明無色のしずくに、もしも色がついていたのなら、きっとお風呂のお湯は黒く染まっているだろう。
だってこんなの、全然、きれいな涙ではないんだから。