大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「まず、三角関数からにしよ。虹にとっては、ややこしい公式たくさんあるから」
「うん。あ、サイン、コサイン、タンジェント、って名前はわかるよ」
「それ分からなかったら、ちょっと困る。三角比だしそれ」
「あと、正弦定理?ってなんかあったよね。忘れたけど」
「……まじ。イチからやろ、不安だから」
千尋が私のノートにシャーペンを走らせる。
浮き出た血管とか筋肉のかたちとか、そういうものを気にしてしまう邪な気持ちをはらうみたいに、千尋の書く文字と、話す言葉に集中する。
きれいな正三角形と、その横に並んだ3辺の長さも3つの角度も全部違うきれいじゃない三角形。
「こっちは簡単」と、正三角形を指さして言った千尋に、何も分かってないくせに、そりゃそうだ、って思った。
いびつな三角形が、簡単に解けるわけないのだから。