大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
なんだか逃げ出したくなって、うつむいて、ごめん、とつぶやいたけれど、どうにも掠れてしまってうまく言えなかった。
そんな私の頭を、私はなでられる資格なんて一つもないのに、千尋はあやすみたいになでた。
中学二年生のあの日から、私のことを虹ちゃんって呼ばなくなったあの日から、千尋は許さなくていいものを許して、抱えなくていいものを抱えて、千歳くんの代わりに、私を甘やかそうとする。
千尋の優しさがどこからくるのか分からない。
それは今も、きっと、これからもだ。
ずっと思ってる。
何度も思う。
私なんて、何もないのに。
ただ、向かいに住んでいる同い年の女の子だ。たまたま、幼なじみなだけだ。千尋に何かしてあげたこともない。
なんで、私なんかに、曇りのない優しさを千尋はひたすらくれるの。
「……千尋、」
「ん?」
千尋に髪をなでられたまま、そっと彼を見上げる。
センター分けの前髪も、ツーブロックの髪型も、金曜日よりは目にしみなくて、もうそんな外側の部分はなんだっていいと思いながら、震えそうな唇を頑張って動かした。