大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「さっきも言ったと思うけどさー、俺だってちゃんと付き合った女くらいいるんだって」
「…意味分かんないくらい好きだった女の子だっけ?」
「そー、そんで意味分かんないくらい今は嫌いな女ー」
口元がゆるく弧をえがいている。
それが、なんだろう、なんとなく。
千尋が貼り付けるような甘い顔とどこか似ていて、ああ、千尋にとっての甘さが彼の場合はゆるさなのか、と何かを悟ったような気持ちになる。
私は、パンナコッタの最後の一口を食べ終える。それから、なんとなく気になって聞いてみることにした。
「その子どんな子なのかちょっと気になるかも。私の知ってる人?」
水嶋くんは私の質問に、うん、とゆっくりと頷く。
それが合図かのように、水嶋くんの表情からはゆるさが消えて、ぱちりと彼は瞬きをひとつおとした。
そして、また私をつかまえた水嶋くんの瞳のなかにはどこか翳りのようなものが見えて、どくん、と心臓が鳴る。
それから、水嶋くんはゆっくりと唇をひらいた。