大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
じっと千尋を見続けていた私に、ようやく千尋は瞳をあわせる。
もう、千尋は、ひとつも甘い顔なんてしていなかった。
ううん,もっと言えば、甘い顔とは、ほど遠い表情。
不機嫌で難しい顔。
まるで、昔の千尋のような。
どうして、と思いながら、言葉の続きを待っていると、千尋が私の髪を弱く引っ張って、顔を少しだけ近づけてきて。
きれいな薄い唇が、ひらく。
「付き合ってないなら、水嶋は、だめ」
「……、」
「つーか、付き合うのもだめだから」
甘さもなければ、優しさもない声、表情。
だけど、瞳は真剣に私を捕らえていて。そのなかに、苛立ちみたいなものを感じたのは気のせいだろうか。
私は言われたことに答えられずに、ただ瞬きをすることしかできなかった。
何も答えない私に、千尋はぐっとさらに眉をよせて、少しだけ顔を遠ざけた。
それから後、解放される髪。
引っ張られる力は本当に強いものではなかったけれど、放されたことで、ぱらぱらと髪がもとの場所に戻って、それで私の思考回路もようやくまわりだした。