大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
水嶋くんは、美優に視線をうつした後、そのまま流れるように再び私の瞳をとらえて、そこではじめて口元にゆるく笑みを浮かべた。
「枢木ちゃんって本当に健気だけどさー、大事なことが分かってないんだよね。まーそれは朝比奈もなんだろうけど、」
「……なに」
「教えてほしー?」
「………、」
挑発するみたいな声や聞き方には慣れた。
だから、素直に頷いたら、水嶋くんは、さらに人のことを煽るみたいに、呑気な欠伸をひとつ落として、それから美優には聞かれたくなかったのか、私の耳元に唇をよせる。
淡いサボンの香り。
たぶん、それが鼻腔をくすぐるのはこれが最後だ、って決意の混じったようなことを思う。
「結局は、関係ないからね。俺も百瀬も。あんたが俺と仲良くしないでおこうって思っても意味ないよ、なんにも」
「………」
「朝比奈があんたのこと恋愛対象に入ってないなら、あんたが何しよーが無理だし、あんたの恋愛対象に朝比奈が入ってること、朝比奈が分かってないなら、一生なんも変わんない」
君は本当のことしか言わないんだね、なんて思いながら、瞬きをおとしたら、水嶋くんがそっと離れていく。
ゆるやかな表情に、冷めている伏し目がちな瞳とゆるりとあげられている口角。
やっぱり、私のことなんてそんなに好きじゃない、って言ってるみたい。
だけど、仕方ないからアドバイスしてあげる、ってそういう笑い方。
全部見透かしているような水嶋くんの前で、私もようやくすこし彼のことが分かるようになった。