大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「枢木ちゃん」
「……なに?」
「さっきの続きだけどさー、枢木ちゃんに近づくなみたいなこと朝比奈に言われて、何様?って返したって言ったじゃん。で、あいつなんて言ってきたと思うー?」
「………」
「“普通に、お前が何様って感じだから”って真顔で言われたー。あいつ、ほんと枢木ちゃんのなんなのー」
「………幼なじみだよ」
幼なじみ。
その箱には嘘も恋も過去もぜんぶはいっている。
千尋が水嶋くんに真顔で言っているところを想像すると、すこしむずがゆくてそのむずがゆさを追いかけるように切なさが溢れてくる。
だけど、水嶋くんには曖昧に笑っておいた。
水嶋くんが、レジ袋を持った手を煩わしそうに少しだけあげて、ゆらゆらと横に揺らす。
ゆるい表情はずっと変わらない。
こんな時なのにお腹が、きゅう、と小さく音を立てたら、それが彼に聞こえてしまったのか、くすり、とからかうみたいに笑われた。
「じゃーね、枢木ちゃん。暇だからねらおーとしたけど、面倒は嫌だからやめたげる」
「……うん」
「あ、でも、カーフィーは大事にしてー」
「うん、する。今も部屋に飾ってあるよ」
「じゃーもういいわー」