大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
千尋の甘い作り笑顔はやっぱり美優には通用しなかったみたいで、胡散臭い笑顔なんて言われたことを知ったら千尋はむっとするだろうなと思う。
しっかり胡散臭さがばれているんだから。美優は侮れない。
他の女の子たちが千尋のことを“くそやろう”っていうのは、千尋に好意をもっていたのに受け取ってもらえず、優しくされなかったからだけど、美優は違う。
美優が千尋のことを毛嫌いしているのは、私のことを千尋が傷つけてる、って思っているからで。そうやって、私を友達としてすごく大切にしてくれていることをこんな時でも実感するから、やっぱり、なんだか複雑だ。
まあ、私のことがなくても、性格的に、ふたりはあんまり仲良くなれないような気もするけれど。
それでも、千尋が帰り道に、私が美優のことを話すのをいつも楽しそうに聞いてくれているのを思い出すと、少しだけ不憫かもしれない。
まさか、美優に裏でこんな風に言われているとは思ってもいないだろう。
勝手に千尋に恋をしている私が勝手に傷つけられていることに美優が腹を立てている、なんて千尋にとっては理不尽でしかない理由だから。
それに加えて。
美優にも水嶋くんにも、何様?って思われているのってなんだか少し可哀想だな、なんて。
空腹で小さく鳴ったお腹を押さえて美優を追いながら、昼下がりの平和な私はひとりで呑気に小さく笑っていた。