大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
私と千尋の家が見えてきたタイミングで、千尋が突然足を止めた。
不審に思いながら、隣を見上げると、千尋は目を大きく見開いて前を見ていて。
その視線をたどるように前に顔をむければ、千尋の家の前の街灯の下に、ふたつの人影がゆれていた。
どくん、と心臓が跳ねる。
だけど、その跳ね方は嫌なものでも苦しいものでもなかった。
少し離れた距離にいるけれど、足音がたぶん届いたんだろう。
千尋の家の前にたつ二人のうちよく知っている一人が、私と千尋の方に顔を向けて、手をあげる。
ふわり、と私たちの間をなでていった風。
千尋は、それをどんな風に受け止めたのだろう。
「…なんで、」
戸惑いを含んだ千尋の声が、鼓膜を震わせて、思わず千尋にもう一度目を向けると、眉間には深く皺がよっていた。
「千尋?」、と小さな声で呼びかけてみたけれど、返事をする気配はまるでなく。
どうして、そんな風にしているのか分からない。
だから、千尋の戸惑いが違う形で私にまでうつってくる。
街灯の下でゆれていたふたつの人影はいつの間にか、私たちのほうに近づいてきて。
それから、見慣れた顔が穏やかな笑みをつくる。
そのすぐ後ろでは、はじめて見る人が隠れるように立っている。