大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「二人のこと待ってたんだよ」
優しくて、落ち着いている声。
私と千尋を交互に見ながら、彼は、困ったように、はー、と溜息をおとした。
―――千歳くん、だ。
そこで、何かが、解けていく。
だけど、必死に、結び目をおさえたまま、私は瞬きをして、口を開こうとした。
「なんで、」
だけど、それは叶わずに、私を隠すように一歩前に出た千尋が、責めた口調で千歳くんにつめよった。
「お昼にきて、すぐ帰るって言ってたじゃん」
「明日は二人で出かけるから俺も虹も会えないってお前が昨日電話で言ってたから、帰ってくるまで待ってただけだよ」
「は?待っててって誰も頼んでないから」
怒っている。すごく。
千尋が怒っているのが伝わる。
それもぜんぶぜんぶ、解きたくないものを解くのを手伝っている。
ぎゅっと唇をむすんで、二人のやりとりを見ている。
珍しく気性を荒立たせている千尋の前で、千歳くんはひとつも顔色を変えずに穏やかなままでいる。
まるで、兄弟喧嘩。
いや、弟の怒りを兄が平然と受け止めているっていう方がたぶん適切だ。