大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「千尋ってば、」
つかまれた手首だけが熱い。
それ以外は限りなく冷たくて仕方ない。
歩くスピードは私に合わせることもなく、長い足を思うままに進めるから、私は引っ張られるように小走りでついていくしかなく。
冷気にさらされて、目が乾いていく。心も、同じように乾いていく。
泣きたいのに、泣けない。
だって、今私の手首をつかむこの人は、どうせまた勘違いをするんでしょ?
気がついたら、家の近くの公園まできていた。
千歳くんに振られた次の日、泣きじゃくる私を千尋がなぐさめてくれた場所。
私は千尋が好きなんだって気づいた場所。
古びたベンチに私を座らせて、そこでようやく千尋は手首から手を離した。
それから、ゆっくりと私のすぐ隣に腰をおろして、長い溜息をついた。
あまりにも近くに座るものだから身体のひと部分は触れている。
だけど、そんな物理的距離がどれだけ近づいていても、こころの距離とは何にも関係ないんだって、そんなことは、とっくのとうに知っていたはずだった。