大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
止め際がわからなかったから。
告白大会にでて、それで千尋に振られようが振られまいが、自分の恋を恋だと千尋にちゃんと認めてもらえれば、それが区切りになるだろう。
目立つのが大嫌いな千尋はそんな方法で告白されるなんて本当に勘弁してほしいとおもうだろうけど。
でも、ささやかな仕返しであったりもする。
私が臆病な嘘ばかりついていたことを別にしても、今まで、かたくなに私の気持ちを受け取らなかったのは千尋だ。
どれだけ遠回しにアピールしても、態度で伝えても、全然分かってくれなかったんだから、千尋にはたぶんこれくらいしないと伝わらないんだろう。
それに、最後になるかもしれないのだから。
告白くらいは、幼なじみとしての枢木虹ではなく、その他大勢のひとたちと同じように千尋に恋をするひとりの女の子としての枢木虹、としてしようと思った。
それで振られたら、諦められる。
止め際は、たぶんそこだ。
抱えていたペンキを一度、床に置いて、ポスターの下にかけられていた参加者募集の木箱に自分の名前を書いた紙をいれる。
紙が箱の暗闇に吸い込まれていったとき、もう、戻れない、と思った。
何があっても辞退はしない。
今きっと、生きていた中でいちばん強かな気持ちになれている。
それは開き直ることと少し似ていたけれど、臆病でいるよりはずっとマシだった。
好き、ってその言葉だけ。
あと、ありがとう、と、ごめんね、をもう一度だけ。
伝えたいことは、複雑なことが起きれば起きれるほどシンプルで、できれば伝える言葉だけは、かなしくてもきらきらしていればと思う。
ペンキを再び抱えて教室に向かいながら、ステージの上で千尋に告白する未来を早々と思い浮かべると、少しだけ足が震えた。