大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】





すると、最近見かけなかった少し懐かしいひとと、ぱちりと目が合って、思わず立ち止まった。



ゆるい表情、疲れているのか目はかなりとろんとしていて、渋々浴衣を着ている感が否めない彼が、近づいてくる。

久しぶりだ。




適当なふりをして正しいことしか言わない男の子。






「枢木ちゃんと、美優ちゃんじゃん」





「……水嶋くん、久しぶり」





私のことをねらうのをやめると宣言した彼だったから、目が合っても私に声をかけてくることはもうないんだって思っていたけれど、そういうわけではなかったらしい。

それに、今となれば、水嶋くんはだめだと言った千尋の言葉なんて、価値をもっていないも同然だ。





カーフィーをまだちゃんと部屋に飾ってあることも、千尋といま距離をおいていることも、水嶋くんにはなんとなく伝えるべきなのかなと思ったけれど、こんな賑わっている廊下でいうことでもないから止めておく。




「水嶋くんのとこは何やってるの?」

「俺のとこは、縁日ー」

「えー、行こうかな」

「きてよー、俺も呼び込みつかれたし、一回戻りたいー」




美優と水嶋くんがいつの間にか仲良く話していて、ちょっと驚いた。

いつの間に仲良くなったんだろうか。でも、ゆるい水嶋くんだからある程度は誰とでも仲良くするんだろう。



水嶋くんと美優が並んで歩いていくのについていく。
おそらく目的地は、私が本当は行きたくないと思っている場所だろう。


だけど、言わないでおこうと決めたのは私だし、仕方ないから諦める。

綿菓子の係をやるんだっていつの日か教えてくれた千尋が、教室に行けばきっといるんだろう。





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