大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
賑やかさが耳から浮いていく心地の中、廊下をすすむ。
縁日の看板が見えて、水嶋くんと美優に続いて中にはいった。
輪投げや、ヨーヨー釣り、それから、チョコバナナ。
たくさんのコーナーに分けられていて、どちらかというと小さい子たちが多いけれど、その中である一角だけ女の子が集まっている場所。
そこを見ないように、うつむいていたら、さっきまで美優と話していたはずの水嶋くんが隣にいて、顔を少し近づけてきた。
「枢木ちゃんー」
「…なに?」
「朝比奈は、綿菓子つくってるよ。行ってきたらー?」
「……行かないよ」
行かないというよりは、いけない、のほうが正しいけれど。
水嶋くんは少し不思議そうに首をかしげたけど、その後、ふわあ、とゆるい欠伸をしたから、何も知らないんだと思った。
人の変化にさとい人だと思っているけれど、さすがに私と千尋の間で何かがあったことは感づいても、何があったか詳しいことまでは彼も分かっていないだろう。
いくら友達だとはいえ、千尋が水嶋くんに私とのことを言うことは絶対にないだろうし。
美優は、ひとりで輪投げのコーナーにいってしまい、今、水嶋くんとふたり取り残されているような状況にある。
ゆるくだらしなく浴衣をきた彼は、私のツインテールをからかうみたいにもちあげて、かわいー、なんて冗談か本気か分からないような声で言ったと思ったら、ヨーヨー釣りのところまで連れて行かれた。