大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
じっと見過ぎていたのか、切れ長で大きな瞳がぱち、と私に向けられる。
まずい、と思ったときには遅かった。
そらすにもそらせなくて、ぎこちなく頭を下げたら、綺麗な微笑みを向けられる。
それから、百瀬さんは私をじっと見たままで、隣にいる千尋の耳元に顔を近づけた。
口元が動いている様子から、何かを千尋に伝えてるんだって分かる。
どくん、と心臓は嫌な風に波をうったけれど、なぜかうつむくこともできず、呼吸をとめて二人のことを見ていれば、百瀬さんに何かを言われた千尋が綿菓子の機械からゆっくりと顔をあげた。
「……、」
そして、目が、合った。
一瞬千尋は驚いたような表情を浮かべたけれど、すぐに表情をなくして、私から目をそらした。
悲しくなる。
好きだ、と思う。
感情はぐちゃぐちゃで、混沌としているのに、好きだということだけははっきりと分かることが、悔しくて、悲しい。
でも、よかった。
それが、今、明日の勇気になったことは確かだから。
会いたくなかったけれど、顔を見れてよかった。
悲しい気持ちになったけれど、だからこそ。
勇気は、悲しさからも生まれるんだって思った。
それからは、もう千尋がこっちを見ることは一度もなかった。