大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「枢木ちゃんー」
「…うん?」
「ヨーヨーやんないのー?」
「やる」
色鮮やかなヨーヨーが浮かぶ小さなプールのまわりにしゃがみこむ。
水嶋くんも私の隣にしゃがんだ。
カーフィーのこと、千尋のこと、色々と伝えようとしたけれど、ここにきて水嶋くんに伝えることは一つでいいや、なんて結論にいたる。
どんなに適当だったとしても、水嶋くんがくれたアドバイスであることは間違いなから、一つだけ、これだけは言わないとって思ったこと。
「水嶋くん」
「んー?」
「……私、明日の告白大会にでるよ」
そこで、ヨーヨーに目を落としていた水嶋くんがゆっくりと顔をあげて、私を見る。
ゆるい表情の中に、確かな驚きの色が合って、少し可笑しく思った。
「まじ?」
「うん、告白する。水嶋くんが、そうやってアドバイスしてくれたんだよ」
「そーだっけー。ついに、頭おかしーことすんの?」
「…うん」
「なにそれー。枢木虹、最高にかっこわるくて、最高にかっこいーじゃん」
間延びしたような声で、褒めてるのかけなされてるのか分からないようなことを言われて、どう返事をしようか迷っていたら、「いーんじゃない」と適当な付け足しをされたから、彼なりに応援してくれてるんだって思うことにした。
最高にかっこわるくて、最高にかっこいい。
正しいことしかいわない水嶋くんがそう言ったんだから、そうなんだろう。
「まー、振られたら、俺がなぐさめたげるわー」
上手につりあげたオレンジ色のヨーヨーを、はい、と私の手のひらにのせながらそう言った水嶋くんには、ヨーヨーだけ受け取って、首は横に振った。
水嶋くんには、水嶋くんの恋があるはずだから。
もうこれ以上変な三角形を作りたくはない。
オレンジのヨーヨーをくれた水嶋くんには、かわりに私がつった桃色のヨーヨーをあげた。
桃色をねらったんだ。
分かってほしい、水嶋くんなら分かるかなと思ったけれど、彼は何にも分かっていないように、ありがとー、と適当なお礼を言って、ヨーヨーをゆらゆらと揺らした。
人は、みんな、自分のことには鈍感だ。
いつか、気づいてほしい。
でも、気づかせる役目は、自分の恋で精一杯な私では無理だから。
そんなことを水嶋くんのようにゆるく思いながら、しばらくヨーヨーをつっていたら、美優が戻ってきて、結局、私はヨーヨー釣りだけをして、千尋のクラスを去った。