大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
リビングに入ってきた私を、千尋は一度だけ驚いたように見たけれど、結局何も言わずに背を向けた。
こんな時でも感じ悪くする千尋のことは、やっぱりあんまり好きじゃない、って八つ当たりするみたいに当時の私は思った。
ソファの上、千歳くんの隣に座ったら、千歳くんが頭を優しくなでてくれて。
「虹、どうしちゃった?パジャマもってるけど、」
「..............虹ね、家出したのっ」
千歳くんの目がまんまるになって、それでさっきお母さんと大喧嘩したことを思い出して、涙がぽろぽろとこぼれていく。
トイレの電気を消し忘れた、なんて些細なことが大喧嘩に発展した。
私が消し忘れたんじゃなくて、お父さんが消し忘れたのに、かなり怒られたから、腹が立ってすごく悲しくなってしまったんだ。
それで、もうこんな家出てやる、って小学四年生の頃の私は大真面目だった。
理由を説明しながら泣きじゃくる私に、千歳くんは困ったような顔でなだめてくれたけれど、「虹、ちゃんと帰ったほうがいいよ」って正しいことだけを言われて、首を横に振ることしかできなかった。
ここにいてもいいよ、ってただそれだけを言って欲しかったんだと思う。
だけど、千歳くんはちゃんとしてるから、そういうその場しのぎみたいなことは言わないんだ。
虹の王子様なのに、なんて馬鹿みたいなことを思いながら千歳くんの隣でいじけていた。