大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「もし、千歳くんが私のこと取り返しに来たらどうする?」
俺の腕の中で、少しいたずらな笑みを小さく浮かべている虹がいる。
そのことがまだ全然信じられなくて、やっぱり何度も夢じゃないのかなって思ってしまう。
虹が俺のことを好きになるなんて、そんなのありえないことだったから。
だけど、真っ直ぐに俺を見て好きだと言った瞳も、ずっと昔に俺があげた虹色の折り紙を握りしめていたことも、ぜんぶ、本当のことなんだって言っているようで、もう、信じるしかなかった。
信じた瞬間、泣きそうになったことは虹には内緒だけど。
虹が俺のことを好き。
それなら、もう、
たとえ千歳くんでも、ゆずりたくない。
「虹は俺のだって言うよ」
「本当に?」
「うん、言ったじゃん。もうだれにも譲らないって」
「そっか」
虹が笑う。
ちょっと見える八重歯が可愛くて、六歳の時と同じような新鮮な気持ちで、好きだ、とようやく思える。本当に、ようやく、好きでいても許されるときがきたんだって、思った。
幸せにもしたいし、守ってもいたい。
泣かないで、笑っていてほしい。
その隣には、ずっと、俺がいたい。
だから、これからも、虹の弱いところを知っていきたい。
ぜんぶ、ぜんぶ、知りたいんだ。
「虹、」
「うん?」
「もう一回、好きって言っていい?」
それで、虹も、もう一回俺に好きって言ってほしい。叶ったんだ、ってこれから何度も思いたい。
そう願いながら、まだ慣れないキスをおとしたら、虹がうれしそうに頬をゆるませて、それから、ちょっと恥ずかしそうに頷いた。
――虹の弱いとこ、ぜんぶ知りたい。
(完)