大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「覚えてるよ。千歳くんが、虹にあげたやつ」
たくさんの女の子たちを虜にしてきたであろう端正な顔を、きれいに歪ませて笑った。
「.......え、」
思わず指の先に力が入って、カサ、と折り紙が小さな音をたてる。
千尋が折り紙から私に視線を戻したけれど、私はどういう表情をつくればいいのか分からずに、ただ歪まないようにすることしかできなかった。
何、言ってんの、このひと。
綺麗な顔で綺麗な嘘をついて、それが私にばれていてもばれていなくてもどうでもいいと言わんばかりに穏やかに笑ってる。
覚えていないわけがない。
時折昔のことをなぞるくせに、小学四年生のときの家出騒動を千尋が忘れるわけがないだろう。
千歳くんがあの時どうしたか、自分がどうしたか、そこに変な勘違いなんて生まれないはずだ。
絶対に。
私は、これ以上千尋の前に、この虹色のハートの煌めきをさらしたくなくて、読みかけだった本に挟んでで、パタンと閉じた。
そうしたら、千尋は一度持っていたシャーペンを置いて、今度は身体ごと私の方に向けた。