大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】





「昨日、千歳くんと電話した」

「えっ?」

「夏休みになったら戻ってくるって言ってたよ」




千歳くん。


その名前を出すのを嫌がったかつての千尋は、もう、いない。

むしろ、千尋のほうが私より彼のことを私に向けて話す。




私が千歳くんのことを、好きだから。
千尋が、そう思っているから。




千尋がベッドにいる私を見上げる。


優しい顔をしていた。

その優しさは、私にとって、世界でいちばん優しくないんだって、千尋は知らない。




「ちょうど夏祭りの時期くらいにこっちに来ると思う」

「そ、なんだ」

「前も虹に言ったと思うけどさ、千歳くん、毎回毎回、虹げんき?って聞いてくんの。昔の虹みたい。昨日は元気だったかもしれないけど今日は元気じゃないかもしれないじゃん、みたいなことを虹が言ってたの思い出して、ちょっと懐かしくなった」



そんな些細なこともしっかり覚えてるのに、自分がハートの折り紙をくれたことは忘れてしまうなんて。



完全に、忘れたふり、をするなんて。



.......本当に、朝比奈千尋はくそやろうだ。






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