とある小説家の恋愛奇譚
その日の夜中。
仙川薫は、客室用の部屋の窓際でぼんやりと窓の外を見ていた。
家の外の道には街灯と、その街灯の影が伸びている。周りは古い洋館のような家ばかりなので、不気味さが漂っていた。
しかし真っ暗なわけではない。月に照らされているからだ。月の光が窓にも差し込み、彼の影もはっきりとできている。
彼の表情は、まるで壊れた人形のような、感情を一切感じさせないものだった。
「……まだ」
すっと目を閉じる。
「………まだ。あと、もう少し」
再び開かれた目には、深い悲しみの色。
ーーーーそれから、二週間後。
少しずつ、微妙ながらにも、出会ったときより表情を柔らかくして来ていた彼は、ひょんなことから、また色をなくすようにその顔から笑みが消えたのだった。
それは、突然の京一郎さんの訪問によって。