とある小説家の恋愛奇譚
ーーーー時は大きく変わって夕方。
「だーかーらー、何度言えばわかるのよ!」
「朱里が適当にしておいてと言ったはずだ。俺はそれに従っただけにすぎない」
「適当の意味わかってる?!」
私と彼の間には、壊れた掃除機一台。
正確には、吸い込むヘッドが折れた、掃除機一台。
「あんたこれで家電壊すの何回目よ……」
「正式な数で言えば三回だ。電子レンジ、洗濯機、掃除機」
「あーもう、なんてこった、うう、アンナぁ」
「ちなみにもうここの本全て読み終わったんだが、何か他にないのか?暇になって来た」
「ならとっとと帰りやがれこの足長男!」
この言い争いも慣れたくないが、慣れて来てしまい、そして彼はそれを、心なしか楽しんでいるかのような顔すらしている。
四週間もいれば、馴染むものなのか。
「あーもうなんなの。ほんと、これ以上家電壊さないで…」
「俺に家事をやらせたらダメだということはよくわかったな」
ーーーだから、気づかなかった。
「いや、やらせてもないでしょ!ただ適当にそこ置いといて、て言っただけで、なんでこうなってるのよ」
「いや、テーブルの角にぶつかったのは、家が狭いからな。不可抗力だ」
ーーーー馴染みかけて来た会話も、理解しかけて来た彼の性格も、
「不可抗力って…ていうか、地味にアンナの家に文句言うな!」
ーーーあっけなくくる終わりも。
がちゃり、と、それは唐突に、しかし恐る恐るリビングの扉は開く。
「えーと、お邪魔してます……?」
そう。京一郎さんが、ここに来ることも。
ーーー仙川薫、これこそが不可抗力じゃない?