とある小説家の恋愛奇譚
ーーーーー待って。置いていかないで。
薫。僕ね、結婚するんだ。
嘘だろう?
だって俺は、ずっとお前の友達だっだろう?
ずっと近くで見ていたんだ。
なのに、なんで。
薫に、1番最初に紹介したくてさ。
やめろ。そんなこと言うな。言わないでくれ。
お願いだから、また俺を一人にしないでくれ……………
「…………」
薫は深い夢からすうっと意識が遠のいていき、現実へ戻ってくるのを感じた。
目を開けて、見慣れない天井に疑問を感じたが、横に気配を感じて首を動かした。
自分のすぐ横で、ぼんやりとしたランプの明かりの中本を読む女の姿をとらえる。
「………」
「あ、起きた?」
そういって本を閉じ、こちらに顔を向けた。
「爆睡だったよ。どんだけ寝てないの」
そんな風に言う彼女は、まだ完全に大人になりきれていない幼さの残る顔つきだった。20歳に行ったかすらわからない。少し目立つ大きさの瞳はこちらをじっと見つめる。
「………大丈夫?なんか飲む?」
「………………寝る」
「はいはい、おやすみなさい」
彼女はまた薫の頭を撫で、布団をかぶせた。
「…………なんか歌ってくれ」
「へ?」
再び本を開きかけて彼女は動きを止めた。
「歌うって、子守唄?」
「…………ああ」
「んな………」
彼女は考える仕草をしてふと、小さく歌い出した。
外国語の歌だったが、薫はわからなかった。
しかし、上手とまではいかないがそれなりに綺麗に歌う声を聞いて、目を閉じていると、また意識は深く沈んでいくのだった。