とある小説家の恋愛奇譚
ーーー雨の日に塀に座り込んでいた彼、千川薫を拾った日から約一週間が経った。
卒論を提出、無事カレッジを卒業し、落ち着いた日々を過ごす計画を立てていた私はこの男を拾ったことにより、酸性濃度百%のつばを飛ばす日々を過ごしていた。
「本を読み終わったならしまえ!」
「本の山を作るな!」
「本を枕に寝るな!」
ーーまず、アンナの書斎にある本棚問題。
「洗濯物は干さなくていい!」
「これぐらいできる」
「出来てないから言ってるの!」
「食器は洗わなくていい!」
「これくらいできる」
「現に割ってるでしょーが!」
「ご飯は作らなくていい!」
「これくらいできる」
「じゃあこの物体はなんなの!?」
ーー並びに家事全般の問題。
「卵は電子レンジで茹でることも焼くこともできないの!」
「それは知ってる」
「ならなんでやるの!?」
「できそうな面に見えてな」
「意味わかりません!」
電子レンジに顔もクソもないわ!
私は怒鳴りながら電子レンジの中を付近で拭く。
「ーー私、この一週間あなたがこの家に居ついたこと驚いたけど…それよりも生活能力の低さに驚愕してる」
「ははは」
「笑い事じゃない…」
彼はソファにドカリと座って長い足を優雅に組んでいる。その姿はさながら貴公子のように見える(実際ぼんぼんなのだが)。
何様のつもりだ、コイツ。
「拾われた身でここまでできるのはもはや神に近い…」
「かみがなんだって?」
「禿げそうって言ってのよ!」
「ははは。あ、お茶ちょうだい」
「自分で入れて」
「いいのか俺がやって」
貴様はお茶を入れることすらできないのか!
ビリッ。
おっと、布巾を破くところだった。てへっ。
「はい!」
「サンキュー」
紅茶を飲みながら本を読んで自適悠々。
「仙川薫……」
「ん、なんだ」
「ここに本気で何しに来たの?」
「愚問だな、「拾われに、でしょ」」
そうだよという風に目を伏せる。まつ毛が憎たらしいほど長い。
「帰る予定はないの?ていうか帰るよね?」
「どうかなー」
「あんたみたいなのね、世の中でへヒモって言うのよ」
「そうだな」
「そうだな、じゃない!あのねぇ、いくら私が甘いからってこんな生活いつまでも続くなんて思わないでちょーだい!」
「自覚はあるのか」
「はい玄関まで行ってお靴を履きましょうか?」
私は机に積まれてる本の角で殺そうかと本気で考えた。玄関までたどり着く前に殺りそうだ。
「はぁー……なんなのよ…」
吐き出したため息の上から言葉がかぶさる。
「俺も一週間過ごして気づいたことがあるぞ」
「…なんですか」
「お前は変わった奴だと言うこと」
「はいはいそうですねー」
「反論しないのか?」
「誰かさんのおかげで反論する気力もないですねー」
私はやれやれとリビングから出ていった。
「あ、今日の晩飯はオムライスがいいな。ケチャップでクマ書いてある」
「わかった作る、作るから……
ーとりあえず、これ以上荒らさないで……」