ダンデライオンの揺れる頃
ここにいては、子供が産めない。

根拠など何もないのに、そう思った。

「じいさん」

かすれた声で、針師の老人を捜した。

彼は何者だったのか、とうとうわからないままだったが、あかの他人の少女に、せっせと食い者を運んでくれた。

こんな時代だ。

弱い者が助け合って暮らすのは、当然のことだったが、それでも、老人は、少女の生きるかてだった。

行くなら、別れくらいは言いたかった。

「じいさん」

もういちど、少女は老人を呼んだ。

あたりは、もうとっぷりと暮れかかっている。

針師は、年寄りのくせに甘い酒が好きだから、誰かにたかって、呑んでいるのかもしれない。

それならそれでもいいか、と少女は思った。

少女は、けだるい動作で通りに歩みだした。

ゆっくり、ゆっくりと進みながら、あたりを見回した。
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