ダンデライオンの揺れる頃
少女は、おもいきり空気を吸い込んだ。

ここには、あたたかく、それでいて少し厳しいような、春の香りがあった。

全てが、芽ぶき、命が生まれる、そんなエネルギーに満ちていた。

少女は、ここで子供を産むのだ、と無意識のうちに悟っていた。

そうでなければ、こんなに、ぴったりした気分でいられるわけがなかった。

ここは、自分の場所なのだ。

「ねえ」

少女は、呼びかけた。

その声は、音にならないほどかすれていて、聞こえないくらいだった。

「こたえてよ」

いつか、この場所に来たときだけ、頭の中にひびいた不思議な声の主に、語りかけているのだ。


『うるさいなあ。もう、どうでもいいんだよ』

返事があった。
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