おやすみ、お嬢様
「うん、あの、美味しいのだけど、なんでいつも美味しいのかなって」

「よく意味がわかりませんけど」

「あの、おいしさが、なんていうか、私の好きな感じの中心っていうか。ほら、美味しいって言っても色々あるじゃない?でも、榛瑠はいつも真ん中だからなんかすごいなあって」

本当になんでだろう。そこまで私はわかりやすいのかしら?私は彼のことなんて時には全くわからないというのに。

「それは、好きな味を知ってるっていうこともありますが、基本的に味覚が似ているんです」

「え?」

「だって、成長期の十年の間、その時々で料理人がかわったり、出される料理の内容は違っても、結局同じ味で過ごしているんだから似てきますよ。そう思いませんか?」

……ああ、そうか。こんなに違うのに、似ているものもあるんだ。

私は顔がほころんだ。

と、榛瑠が急に手を伸ばして私の口元近くに触れた。え?なんかついてた?

「ねえ、一花、早く食べてしまわない?」

「? なんで?」

何か予定でもあるのかな。

と、急に榛瑠が立ち上がった。そして、私の椅子の後ろに来る。窓からの光が遮られる。

「榛瑠?」

見上げる私の首元に後ろから両腕がまわされる。

「食べていると、キスもできないでしょう?」

なに言い出すの、この人!

「食べてるの!」

「うん、だから早く食べちゃって?」
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