おやすみ、お嬢様
「……私はゆっくり味わいたいの!せっかく作ってくれたんだし」

「作った方としては十分なんですが。食べながらでも、まあ、いいけど」

と、頬にキスされる。あーっ、もうっ。

「邪魔!!! 食事が不味くなるでしょ!」

「つれないなあ」

笑いを含んだ声とともにいったん腕が外される。からかわないでほしい。

私はとりあえずドリンクをひとくち飲むと、彼を見て言った。

「あんまり、からかわないで。時々急にからむんだから」

「可愛い表情するから。しょうがないと思いません?」

私は無視して食べることにした。なにが、しょうがないよ、もう。

「それに、来週末は時間とれないから、今のうちに補充しておかないと」

なんの補充よ。それはともかく。仕事? ため息が出そう。

「来週、忙しいの? 仕事?」

そのまま上を見て言う。後頭部が榛瑠の体にあたる。彼が、私の額に触れながら言った。

「そう、だから、さっさと食べて?」

触れられた手が心地よい。でも、それとこれとは、と言おうとしたら、どこかから電子音が聞こえた。

「あーあ、ほら、あなたがつれないこと言うから」

そう言って置いてあったスマホを取ると、私の頭の上に片腕をのせた姿勢で読んでいる。あの、重いんですけど。
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