おやすみ、お嬢様
ちらっと横を見ると集中した表情をして仕事をしている人がいる。彼は本気で入り込むと、周りの音が聞こえなくなるタイプだからなあ。

たぶん、本来はマルチタスク型の人ではないのだろうな。なんでもこなしているし、出来そうにも見えてしまうけれど。

私は軽く伸びをして自分もアプリなんかで時間を潰すことにした。

そして、小一時間経った頃には飽きてしまって、どうしようかな、と思っていた。

隣の人は相変わらずだ。ちょっと腹がたつ。放置されてるし、私。でも、しょうがないか。

といっても、この家なにもないんだよね、時間潰せそうなものが。

仕方なく、私は立ち上がった。コンビニなら近くにあったし行ってこようかな。時間潰せるし、あ、おやつ買ってこよう。あと、雑誌とか。

「あの、榛瑠、ちょっとごめんね?」なるべく邪魔にならないように声をかける。「少し出かけてくるね。仕事してて?」

「どちらに行かれるんですか?」

榛瑠がこちらに視線を移すことなく聞く。

「コンビニ、かな」

「どうしても?」

え?

予想してないリアクションだった。ふつうにいいよで終わるつもりで話したのに?

「どうしてもじゃないなら嫌です」

そう言って急に腕が伸びてきたと思ったら、半ば強引に引き寄せられた。

「ちょっと、なに? なんで?」

「だって寂しいから」

……いつも思うけど、急に言わないで、そういうこと。心の準備できてないから。

「……画面見ながら言ってもダメなんだからね」
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