おやすみ、お嬢様
榛瑠がこっちを見たと思ったらキスされた。

「もうすぐ終わるので待ってて」

結局、うん、って言っちゃう。私、彼に甘すぎだと思う。

なんとなくそのまま、もたれかかりながら言ってみる。

「いくらネットを使って仕事してると言っても、プライベートとの区別がつかないほど仕事するのはどうかと思うわ」

「その通りです、返す言葉もありません。もう少し改善します。……ごめんね?」

そう言って金の瞳が私を見る。ので、私はまた、うん、と言う。榛瑠が左手で私の頭をなでる。

私はずるずると彼の膝を枕にする形でソファに横になった。

嬉しいような、寂しいような。

ぼんやりとしながらなんとなく思いついたことを口にする。邪魔しないように、なんてもう知らない。

「この家って何にも余分な物ないよね」

「そうですか?」

「そうだよ」

私は寝転がったまま部屋を眺める。

ここにある主だったものといえば、ダイニングとソファセットだけだ。テレビもない。前はあったらしいが、見ないからということですぐに手放したらしい。カーテンは初めからない。

直線的で色味を抑えたシンプルでシックなデザインの家具。榛瑠が選んだものではない。日本に引っ越してくる時に知り合いのコーディネーターに一任したそうだ。

彼のリクエストは、シンプルで邪魔にならないもの、であったらしい。きっと頼まれた方は結構困ったんじゃないかなあ。
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