おやすみ、お嬢様
だって、邪魔じゃないって難しいよ。余分な装飾がないだけでなく、むだな温かみも冷たさもなく、でも、心地の良いデザイン性は欲しいってことなんだもの。

その意味ではそのコーディネーターはとても優秀だと思う。この家には余分なものが本当に少なくて、彼の本当の意味での注文、つまり自分の思考や行動を妨げない家、というのを成功させている。

はっきり言って、私が一番この家の中では異質で騒がしいよ。

だから、思うのだ。

いつか、私も彼の中で必要のないものになったらあっさり手放されてしまうのではないだろうか。テレビみたいに。

困ったことに前例があるからなあ。

それでも、榛瑠がどこかで元気でいてくれるならいいよと以前に言いはしたけど、でもね。

……せめて、もう少し何か温かい感じがあればなあ。

「榛瑠、猫でも飼えばいいのに」

「どうしたんですか、急に」

彼が私を見下ろす。

「だって、このマンション室内飼いはいいんでしょ?」

榛瑠はまた画面に目を戻す。その代わり手が私の頬を撫でる。

「榛瑠がいないときは私がみてあげるし」

「あなたが?」

なんだかちょっと笑いを含んだ声に聞こえたのは、私のひがみかしら。そうなのよ、私、あんまり動物に懐かれないのよ。

昔うちにいた猫のボスには、はっきり言ってバカにされてたし、レトリバーのペーターは榛瑠にべったり懐いてたからなあ。

いや、ボスも彼にはけっこう礼儀正しかった。なんなの、なんで動物にまでこの人は……。
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