おやすみ、お嬢様
すっかり拗ねた私の頭を彼がまた撫でる。この人、ホントに私のこと猫と勘違いしてないかしら。

「にゃあっ」

私はそう言って、爪で引っ掻く代わりに彼の指を甘噛みした。

榛瑠が笑う。金色の目が細くなる。その顔をみると、ま、いいかって思えちゃうのが困る。

下から見ながら思う。彼の方がよっぽどケモノっぽい。榛瑠が猫だったらどんなかしら。間違いなく美猫ね。

白くて、敏捷で、しっぽはぴんっと長くて。ツヤツヤのシルクみたいな毛並みで。目はゴールデンアイ。近寄るとしっぽ立てて離れていくの。でも不意にやってきて喉ならしたり、可愛い格好で寝てたりするの。それで、機嫌がいいとさわらしてくれるの。

私は思わず顔を両手で覆ってしまう。だって。自分で想像しといてなんだけど、めちゃくちゃ可愛いんだもの。そんな猫いたら絶対飼う。もう、取り合いになってもお家連れて帰るよ。

私は指の間から上を見る。あ、いたんだった。リアル人間バージョン。

人間版が私を見た。

「どうしたんです?今度はなに思いついたんですか。忙しい人だな」

そう言って私の手をどかそうとする。私は抵抗した。

「にゃーっ」

榛瑠がちょっと呆れた顔をした。

「あ、そうだ」私は起き上がって言った。「ねえねえ、榛瑠がにゃあって言ってみて」

「なんで?」

「いいから」

彼は形のいい眉を寄せながらも言ってくれた。でも。

「思ったより可愛くない。つまんない」
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