おやすみ、お嬢様
「可愛かったらどうなんですか」

「えっ」 どうって言われると……「えっと、撫でてあげる」

ふーん、と言って榛瑠は私に近づいてきて、にゃあ、と言った。ちょっと可愛かったので金色の毛を撫でてあげた。

そしたら、その猫、じゃない、彼が、私の耳もとを優しく舐めた。

あれ?

耳を舌先で舐められる。動けないでいるとそのまま首筋にも。

気づくと抱きしめられてる。それから唇にキス……じゃなくて舐められた。にゃあーー!

「ちょっ、ちょっと待って。仕事おわったの?!」

「メールの返信待ち」

そう、低い声でいうと、今度は私の鼻先を舐めた。

「ふにゃあっ」って思わず言ってしまった。やだ、もう。

榛瑠がふっと笑った。

「もっと、ないていいよ?」

よくないよ! 押し返そうとした手を取られる。

……指舐めないで!抵抗も無駄だった。金の瞳でじっと見られる。頭おかしくなりそう。

その時、メールの着信を知らせる音がした。榛瑠がちらっとそちらを見る。

私はほっとした。と思ったら、頬を両手で挟まれてキスされた。

唇に、対人用の、深いキス。

やっと離してくれた時、榛瑠が私を見ながら言った。

「やっぱり自分の会社売っちゃおうかな」

「……! いいから、今はメール返して」

頼むから離れて!

榛瑠がいつもの表情でpcの画面と向き合う横で、私はクッションに顔を埋めてぎゅっと抱えた。

もう、ほんとに、ほんとに、油断も隙もない。

わがまま猫なんかより、もっとワガママでもっとどうしようもなくて、もっと……!

なによ、私の世話係のはずだったのに。

飼いならせたことなんか一度もない。いつだって振り回されて心をもっていかれてしまう。

いつも、いつも、いつも。

いったい、どこまでいくのだろう。
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