おやすみ、お嬢様
海からの潮風をうけながら、すこし海岸線を歩くことにした。

榛瑠と手を繋いで、足元が悪いので半歩遅れがちについていく。

ときどき彼が止まって待ってくれる。微笑んでくれながら。

多分、私もそんな顔をしていると思う。

春先で肌寒かったが、ちらほら人はいて、やっぱりカップルが多い。

たまに、こちらを見ている人に気づく。もちろん私じゃなくて榛瑠を見ているのだ。

女の子同士で来ていたりするグループだと露骨にわかる。

榛瑠は気にするそぶりもない。

やがて小高い崖につづく上りの遊歩道に行き着いた。ここまできている人は見当たらない。

「のぼってみますか?足元悪いしやめておく?」

私のこの日の靴はヒールのあるパンプスだった。

でも、躊躇なく答えた。

「のぼります。当然」

彼と並んでのぼりながら私は聞いてみた。

「ねえ、結構見られていたけど平気?いつものことか」

彼はしょっちゅうそんな視線にさらされる。昔からだ。見ちゃう人の気持ちもちょっとわかるんだけどね。視界に入っちゃうんだもの。キレイなんだもの。

「たまに、ガンつけてんじゃねえって言いたくなる人もいますけど、大概は気になりません。きりがない」

だよねえ。でも、私だったら嫌だろうなあ。並んでるだけでもちょっと嫌だもん。言わないけど。

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