おやすみ、お嬢様
「だって、そういうのを引き受けるのも、私たち事務の役割みたいなところが……」

「人が楽するのを手伝うことはないですよ、取捨選択しなさい。私がいちいち言うわけにもいかないし」

そうなんだけどね、わかっているんだけどね。

「だって、そういうけど、課長様。もっと大変な仕事抱えてると思うと手伝いたくなるし、私にって言われると、断れないし……。何なら課長も遠慮なく言って下さい。あ、でも、来週はやめて」

「まったく」榛瑠がため息をつく。「あなたはあなたが気にしなくていい人間に気を使いすぎなんですよ」

そう言って私を引き寄せた。

「その割にはこっちは手を抜くしね」

「そんなことない……」

全部言い終わらないうちに唇をふさがれた。長い、ちょっと乱暴なキスだった。頬に夕日が当たるのを感じる。

「もう、だれか見てたらどうするのよ」

離してもらった後、彼につかまりながら言う。榛瑠の腕が腰に回されて支えてくれる。

「誰もいないし。いてもいいでしょ、見せてやれば。関係ないし」

関係あるわ! この人はほんとに!

「にゃあっ」

私は榛瑠の頬を軽くだけどつねってやった。反省しなさい、もう。

「舐められたいの?」

榛瑠が私の手をとって言う。ちょっと!

「いやっ!」

私は彼から逃れた。榛瑠は笑う。

「ほら、危ないですよ。さ、そろそろ戻りましょうか、日も傾いてきたし」
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