おやすみ、お嬢様
下りは上りよりも足元がおぼつかなくて、ずっと下を向きながら歩かなければいけなかった。

なんだか疲れて顔を上げた時、前を歩く榛瑠の後ろ姿が目に入ってボケっと見とれてしまった。

彼の海の向こうを見る横顔に夕日があたっていて、金色の髪を染めていた。シャープな首から顎の線。暖色のカーディガンが温かみを添えている。伸びた背筋と長い手足。

私、恋人同士でなかったらいろいろまずかったかも、って思うくらい、本当は見てて全然飽きない。

昔、彼がまだ我が家にいた頃もそうだったかしら。あんまり覚えてないけど、あの頃はむしろ、彼の視界に入ろうと一生懸命だった気がする。いつも目の端で姿を探しながら。

そして、探すものが消えてしまった時……。

急に風の音が耳に入った。胸の奥に隠してあるものがざわざわして、目を閉じる。

大丈夫だよ、私。もう、間違えなくていいよ。

目を開いた時、足の裏で土が滑った感じがした。で、気づいたら転んでいた。

「痛〜い」

お尻のところがめちゃくちゃ痛い。あーもー!

「一花? 大丈夫ですか?」

榛瑠が慌ててやってくる。

「大丈夫だけど、いった〜い」

「……とりあえず、パンツ見えてますけどね」

そう言って榛瑠がめくれていたスカートを直した。

私は慌てて上体を起こしてスカートを押さえる。うわあ〜。もう最悪!
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