おやすみ、お嬢様
「一花」

もう一度呼ばれてちらっと後ろを向く。

榛瑠は眠そうながらもどこか楽しそうな顔をしていた。立て膝の上にのせた腕に頭をもたれかけさせて、こちらを見ている。片側の肩から布団がはずれて白い肩が露わになっていた。

これも付き合って、その、えっと、知ったのだけれど……彼はどうやら着痩せするらしい。

実は太ってる、という意味じゃなくて。背広だと背も高いせいか、どっちかというと細身に見えるのだけど、実際は筋肉質なんだよね。

昔はもっと華奢だった印象があるんだけど……。

あーもー、慣れないよ! 無駄に、本当に、ドキドキするんだから。

私が視線を外してまた歩き出そうとしたとき、もう一度呼ばれた。

「一花お嬢様」

ちらっとまた振り返る。

金色の瞳が私をじっと見つめている。口元には笑みを浮かべて。

あーもう!どうしろっていうのよ。

私はため息をつくと、ふてくされながら再び榛瑠に近づいた。

近づいても榛瑠は動かない。

ふわっとした金の髪が目にかかっている。私はそっと手を伸ばして髪をどける。

薄い笑いをともなった、艶のあるいたずらっぽい目が私を見る。

……しょうがない人。

私はベットに手をつくと、身を乗り出して榛瑠の唇にキスをする。それが、彼の無言の命令。

まったく。この男は眼だけで人を動かす。

榛瑠が私を引き寄せた。次の瞬間、私はベットに横たわっていて榛瑠が上から見ていた。
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