おやすみ、お嬢様
「立てますか?」

手をとって立ち上がる。なんかちょっと声が冷たい気がするのは気のせいかな?

「怪我は?擦りむいたりしてない?」

それでも榛瑠はあちこち私の体を心配してくれる。

「平気と思う。お尻打っただけ。スカートの後ろ大丈夫?」

服は大丈夫だった。ついた砂を払って落ち着いたとき、彼の冷たい視線に気がついた。

私は引きつった顔でわざとらしく笑ってみせた。

「まったく……」

「ごめん、でもわざとじゃなくて……」

「わざとだったら困るでしょう。いい年した女性が何やってるんだか。それでなくても、時々、あなたが良家のお嬢様だってこと忘れているんじゃないかと思いますよ」

「だって……」

たまたま転んじゃったんだもん。痛い思いしたの私なんだから怒らなくてもいいのに。

「手をとってあげなかった私も不注意でしたが、それにしてもです。それこそ誰かが見てたらですよ」

そこまでパンツ見えてましたか。あーもーどっかに隠れたいよ。

榛瑠がため息をつく。えっとえっと。

「ごめんなさい。あの、怒らないで?」

「怒ってるわけじゃないですけどね。なかなかの絵面だったもので」

なんか笑うしかないかも。

「あの、忘れて?」

「百年先まで覚えてますよ」

「あー、百年の恋も冷めるって?」

軽口のつもりだったのに、自分で言って自分で傷ついた。実際、いま目の前で冷められてるし。

思わず手で顔を覆う。と、そのまま抱き上げられて肩に担がれた。
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