おやすみ、お嬢様
「ちょ、ちょっと!危ないよ」

「あなたを歩かせる方が危ないです」

そう言ってそのまま下っていく。ちょっと、怖いし!って、意外にこの人平気そうだ。

「暴れたら今度は俺が転ぶからね」

不機嫌な声で言われる。

「大人しくするから!」

だから機嫌なおしてよ。私が転びやすいのは昔からだよ、知ってるでしょ? そう、子供の時から。

「……ねえ、あと何回なら平気?」

「何がですか?」

「失敗するの。百年の恋はともかく、あと何回くらいなら我慢してくれる?」

自分で聞いててなんか泣きそうだった。あとどのくらい我慢してもらえるのかしら。いつか冷められちゃうのかなあ。

「……。今までどれくらいあったのかもわからないのに、そんなこと聞きますか?だいたい、私がオムツだって替えてたのに」

「それはそうだけど……」

オムツも……え?あれ?

「ちょっとまって、私、あなたが来た時五歳よ!オムツ外れてた!」

榛瑠は声を出して笑った。

「もう!こっちがはっきり覚えてないからって、あることないこと言わないで!」

「オムツはともかく、似たようなものですよ。百年分なんてとっくに冷めてます」

「ひどい……」

目元がちょっとあつくなる。たしかに迷惑いっぱいかけてきたけど、ひどい。お互い様じゃない。

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