おやすみ、お嬢様
いつにも増して、この夜の彼はとても紳士だった。
背筋を緩ませることなく、でもリラックスして、ずっと柔らかく微笑んでいた。
皮肉っぽいからかいもなく、穏やかな落ち着いた声で話した。
自分がこれまで行った、外国の街や、会った人の話なんかをしてくれた。
暮れていつしか暗くなった海を横目に、美味しい食事をいただきながら、私はどこかたゆたうようにその声を聞いていた。
「どうしました?今晩はあまり話しませんね」
彼がそう言った時、テーブルにあるのはデザートになっていた。
「少し酔ったかも。でも、あなたの声を聞いているの好きよ」
「そうですか。私もお嬢様の声、好きですよ」
「ありがとう」
そう言ってもらったので、私はふと思い出したことを口にしてみた。
「そういえば今ぐらいの時期に、星を観に行ったことがあったよ」
「星ですか?」
「そう、大学の時に。友達に誘われて6、7人いたかなあ。山の上にね、行ったの」
「楽しそうですね」
「うん、でも、寒くて。そんなに高い山じゃなかったんだけど、日陰とかにまだ少し雪とか残ってて。とりあえず、震えてた」
「厚着していくことを誰も思いつかなかったんですか」
「そうなの。で、寒いのが辛いんだけど、なんかみんな逆にテンション上がっちゃって、そのうち男の子が叫び出して」
「男もいたんだ」
「半々くらいだったかな。うん、最初はね、寒いとか叫んでたんだけどそのうち、バカとか誰々が好きとかみんな言い出して。星そっちのけで。面白かったな。って、話すと全然、つまんないね」
背筋を緩ませることなく、でもリラックスして、ずっと柔らかく微笑んでいた。
皮肉っぽいからかいもなく、穏やかな落ち着いた声で話した。
自分がこれまで行った、外国の街や、会った人の話なんかをしてくれた。
暮れていつしか暗くなった海を横目に、美味しい食事をいただきながら、私はどこかたゆたうようにその声を聞いていた。
「どうしました?今晩はあまり話しませんね」
彼がそう言った時、テーブルにあるのはデザートになっていた。
「少し酔ったかも。でも、あなたの声を聞いているの好きよ」
「そうですか。私もお嬢様の声、好きですよ」
「ありがとう」
そう言ってもらったので、私はふと思い出したことを口にしてみた。
「そういえば今ぐらいの時期に、星を観に行ったことがあったよ」
「星ですか?」
「そう、大学の時に。友達に誘われて6、7人いたかなあ。山の上にね、行ったの」
「楽しそうですね」
「うん、でも、寒くて。そんなに高い山じゃなかったんだけど、日陰とかにまだ少し雪とか残ってて。とりあえず、震えてた」
「厚着していくことを誰も思いつかなかったんですか」
「そうなの。で、寒いのが辛いんだけど、なんかみんな逆にテンション上がっちゃって、そのうち男の子が叫び出して」
「男もいたんだ」
「半々くらいだったかな。うん、最初はね、寒いとか叫んでたんだけどそのうち、バカとか誰々が好きとかみんな言い出して。星そっちのけで。面白かったな。って、話すと全然、つまんないね」