おやすみ、お嬢様
「そんなわけで取り残されたんですが、その夜が開けた時見た朝焼けは本当に美しいと思いました。……そんな顔しないでお嬢様」

一花は顔をこわばらせている。夜の闇に波がよせて返している。

「でも、だって。え、足?大丈夫なの?」

「足は後遺症もなく完治してます。心配しないで。ただ、その朝がきれいだったと言いたいだけですから」

あの日の朝は忘れないだろう。俺はホッとしながら明るくなっていく空を見ていた。

雨は上がっていた。濡れた地面が美しかった。岩山から朝日がさした。

その時、世界が光り輝いた。

赤茶けた大地のそのずっと向こうまで光が満ちて広がっていて、世界は清浄で、静かで、美しかった。

俺は一人で孤独でそして満たされていた。

ああ、そうか、と思った。俺はこの世界を愛しているんだ。

その時、いるはずのない誰かの気配を感じた。思わず振り返ってしまったくらいに。もちろん誰もいない。

でも、なんだろう、この知っている感覚。

無意識に手をつなごうとして気づいた。

ああ、そうか、一花か。

いないその人が自分を包んでくれている。


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