恋の残り香 香織Side
健司と香澄は付き合いはじめた。

しかし健司は日に日に痩せていく。

食事を勧めても


「お腹は空いていないので…」


と、何も口にしようとしない。

表情も乏しくなり、笑うこともなくなった。


「付き合ってるんだから、香澄、でいいよ」


何度言っても健司は敬語をやめてはくれない。

その訳を香澄はもう分かっていた。

それでも健司を離したくはなかった。


エゴでもいい、そばにいてくれたらいつかきっと…




「健司!お前何やってんだよ!」


香澄が退院し、二人で出掛けた時、健司に誰かが物凄い勢いでつかみ掛かってきた。

少し柄の悪そうな雰囲気の男だと香澄は思った。


「お前、マジで何やってんだよ!
勝手にいなくなって、連絡も取れねーし…
何でこんなに痩せてんだよ!なぁ」


「悪い…」


「悪いじゃねぇよ!
どんだけ心配したと思ってんだよ!
美加だって」


美加と言う名を男が口にした途端、健司の顔色が変わった事を香澄は見逃さなかった。

健司はその名を聞いた途端に泣き出しそうな顔をした。

覇気のなかった瞳に、一瞬光が宿った。

しばらくぶりに見る生きた表情だった。
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